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消費税が上がり続けたら

 国の借金にあたる国債の残高は2019年度末に897兆円に達する見込みで、30年前の1989(平成元)年度末の161兆円の約5.6倍にまで膨張しています。

 国の経済力を示す国内総生産(GDP)に対する比率は既に2倍を超えており、先進国の中でも突出した規模となっています。こうした状況に対し経済協力開発機構(OECD)は4月15日に発表した「対日経済審査報告書」において、政府に対し財政再建を強く提言しています。

 報告書では、赤字が続く「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)を消費税だけで十分な水準に黒字化すると仮定した場合、税率20~26%への引き上げが将来的に必要になると試算。他の税目を含む増税や歳出削減の具体的な計画を立てて実行するよう促しています。

 報道によれば、OECDのグリア事務総長は東京都内で行われた記者会見において「10月に予定されている8%から10%への消費税増税は不可欠だ」と述べ、さらに段階的に引き上げるよう提案したということです

 一方、政府は今年10月に消費税を10%に引き上げ、併せて歳出も抑えることで2025年度に基礎的財政収支を黒字化させる方針を示しています。麻生財務大臣は今回のOECDの提言についてのインタビューに答え、「その時の経済情勢による」「それから先の話までコメントする段階ではない」と話したとされています。

 史上類を見ない規模で財政赤字が積みあがる中、政府の財政再建に向けた具体的な動きを求める声も日に日に強くなっていると言えるでしょう。

 果たして、消費税はこの先本当に15%、20%と上がり続けていくのか、そして上がっていったらどうなるのか。元「日経ビジネス」誌副編集長で経済ジャーナリストの磯山友幸氏は、4月19日のPresident onlineに寄せた「このタイミングで新紙幣発表 本当の狙い」と題する論考において興味深い指摘を行っています。

 消費税率は10月に8%から10%に引き上げられるが、それで「打ち止め」ではないのは明らかだというのがこの問題に関する磯山氏の認識です。

 だからこそ政府は(根強い反対論があるにもかかわらず)軽減税率を導入することとしている。今は、10%と8%という小さな差だが、欧米のように消費税率が20%近くになった際に食料品など生活必需品を同率にまで引き上げることは現実的に難しくなるからだということです。

 また、財務省は「国民負担率」という数字を発表する際に、必ず諸外国との比較データを同時に示していると氏は言います。

 今年度はその中で、最新の実績である2017年度の日本の国民負担率は42.9%と過去最高となったことを示すとともに、国際比較ではルクセンブルグの87.6%をトップに、フランス67.2%、ドイツ53.4%、イギリス46.9%といったグラフを並べ、OECD加盟国34カ国中27位であるとしている。つまり、まだまだ日本の国民負担は低いと強調しているということです。

 今年の10月に消費税率が10%になれば、またぞろ税率引き上げの声が出てくるのは間違いない。ただし、そうなれば消費税を回避しようという動きも出てくる。それを阻止するためにも、(今のうちから)把握がしやすい電子データが残るキャッシュレス化を進めておこうようというのが彼らの目論見だと磯山氏はこの論考に記しています。

 もっとも、果たして政府の思惑通りにキャッシュレス化で消費把握が進むのか。日本人はその点賢いので、政府の思惑の上をゆくに違いないと氏はここで指摘しています。

 例えば、消費税を取られない最良の方法は「消費」しないこと。つまり、消費税は金銭を媒介にして「売買」されることで課税対象になるので、それを回避するには「売買しない」という方法もあるということです。

 そうした視点から、消費税率が20%近くになれば、(おそらく)物々交換サイトが全盛になるだろうと、この論考で磯山氏は予想しています。

 昔話の「わらしべ長者」ではありませんが、必要なもの同士を価格を付けずに交換すれば消費税を課税するのは難しい。一本の藁とミカンを交換するように、漁師が捕った魚と農家が作ったダイコンを交換する。同様に写真家が商品の撮影1時間を提供し、その店がお礼に商品を渡すというのが(新しい時代の)「物々交換だ」ということです。

 場合によっては、交換を媒介する新しい「物」が出てくることも十分に考えられる。今全盛のクーポンやポイントがその役割を果たす可能性もあるが、ポイントが現金と紐付けされているとややこしいので、例えば「文鎮」(←何で?)などがベンチマークになると磯山氏は言います。

 勿論、実際に文鎮をやり取りする必要はなく、一種の仮想通貨のままで良いのでしょう。文鎮でなくても、普遍的な「価値」をシンボリックに表せる記号であれば何でもよいのかもしれません。

 もともと日本は物々交換による非金銭経済が分厚い国だし、今でもコミュニティはそうした助け合いで成り立っている部分もあると氏は言います。助け合いを仲介する「地域通貨」なども広がるなかで、キャッシュレス化がそうした動きを後押しする可能性もあるということです。

 政府が進めるキャッシュレス化が金銭経済をより精緻にし徴税にプラスに働くのか、それとも、金銭経済を超越したキャッシュなき社会に突き進むきっかけになるのか、それを推し進める政府にとっては「双刃の剣」になるだろうというのが磯山氏の見解です。

 いずれにしても、日本でこのまま消費税が上がり続ければ、(ひとり一人のお財布の中身の話ばかりでなく)様々な部分で社会自体に影響を与えていくだろうと考える磯山氏の指摘を、私も大変興味深く受け止めたところです。






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